会社で嬉しくて泣いてしまった
通信販売の会社に勤務していたときのことです。
私は運がよい方だと思っているのですが、通販会社に入社してすぐに、通販市場が毎年30%~40%の成長を続けていました。私の勤務する会社もライバル会社もすべてこの伸びが5年~6年ほど続いていたのですが、その翌年にこの成長が止まった瞬間、売上は前年比-30%になったのです。私の会社の通販事業部は100億以上の赤字となりました。
そして、その対策として電話注文時にお客様に商品を勧めるセールスがはじまりました。(一客単価アップ)しかも在庫が余って、倉庫代もかかるというので、6人掛けのコタツのセットを案内することになりました。長方形のコタツと掛敷布団のセットで18,000円の商品を15,000円で少し安く案内しました。
アパレルのワンピースや下着を注文してきたお客様に「コタツいかがですか?」と案内するのです。それは、お客様は驚いたり、あきれたりされます。
オペレーターも当然嫌がりました。それでも案内してみると不思議なもので売れるんものなんです。
お客様は「あなたが大変そうだから、買ってあげるわ」「ノルマがあるみたいだから1台買うよ」と買ってくれました。
それから会社はこの方法で売上も見込み、もっとお客様のニーズにあわせるため、化粧品のおすすめをはじめたり、クレジットカード加入をはじめたりしていきました。
嫌がるオペレーターにやってもらうのは、簡単ではありません。お客様も案内されてよい気持ちになっている方はほとんどいないからです。
商品やクレジットカードの良さを説明したり、皮膚理論を教育したり、案内トークや案内のタイミングを分析して1通話ごとに指導したりしていきました。
オペレーターもやらなければいけないとは理解しつつも、本気になれていませんでした。当然、営業活動ですから他の拠点と比較されたり、もっと数字を要求されます。
そこで当時のコールセンター長と私たち社員がぶつかりはじめます。社員の中でもリーダーシップをとっていた私に他の社員も「これ以上、数値上げるのは無理です」「お客様が嫌がっているじゃないですか?」「オペレーターもこれが嫌で退職する人も出始めているじゃないですか?」「さと~さんがセンター長に言ってください」ということを言われました。
そこで私も「このままでは退職者がどんどん出ますよ」「お客様が離れていってますよ」とセンター長に伝えますが、「今は数字を作らないといけないからがんばってほしい」とのことでセンター長自身も苦しんでいるようでした。
すると数日後にオペレーターと社員もいるセンター全体の朝礼で「セールスはとにかくやってくれ、100%案内することをやってもらわなければ困る」というような話しをマウント的に話してしまいました。私はこの朝礼にはいなかったのですが、その後のオペレーターは「やる気をなくした」「もう辞めたい」ということを社員に言ってきて、社員も「上から言われたことに私も聞いていて、嫌になるよ」と同調していました。
そして私が出勤すると社員メンバーから「聞いてください。朝礼でセンター長がとにかくやれ!ということを言ったんですよ、さとうさんがいない日を狙っていったんです。オペレーターからも辞めたいと言われて困ってます。センター長を止められるのはさと~さんしかいないです」とのことでした。
私はセンター長のところへ行き、話しましたが「会社の方針なので、やってもらわないと困るから」とのことでした。
最近のセンター長のトップダウンな指示やオペレーターへの強行な要求に私も悩んでいたため、「これは自分が覚悟で本気でぶつかっていかないとだめだ」という思いと「センター長はもっとオペレーターもがんばっていることを見るべき」と思い、オペレーターが対応しているコールセンターの真ん中の席に呼び出しました。
思い切って上司に意見しました。
- 最近の上からのやり方に社員もオペレーターもい不満を持っていることは知ってしますよね。自分が会社から言われているからといってそれを直接下にぶつけることはやめてください。
- 下の者にものを言うにも上から言うから、更に悪い方向へ進んでいるんです。
- 上の要求だけではなく、もっとオペレーターや社員に思いやりを持った発言するとか出来ないんですか。
- このまま退職が多く出て、運営ができなくなります。つぶせって言われているんですか。
- この、オペレーターのがんばりをみてくださいよ。電話も聞いてみてくださいよ。それも認めず要求だけなら誰でもできますよ。
このようなことを言っているうちに涙がでてきました。 手も震えてきました。恥ずかしいとかいうこともなく、もうどうでもいいやと思って精一杯いいました。センター長も泣いていました。
そして、センター長から「本当にごめん。自分が上からの要求にいろいろさとうさんはじめ社員に動いてもらったけど、もっと高い数字を求められて、これ以上、上げるには自分が悪者になってでも要求するしかないと考えていた」とのことでした。
私も「それならそう言ってくれたらいいじゃないですか、困っていることを部下に相談してもらえたら、それ以上にする方法をみんなで考えますよ」などと1時間ほど話していました。
近づきにくい雰囲気ではあったのですが、他の社員が恐る恐る2人のところにきて、『すごいことになってます。今日のセールスの成約件数がこの1時間で昨日の件数を超えています!』
何があったのか、なぜ数字が伸びているのかを聞いてもわからないとのことでした。ただし、これまであまり案内しなかった人まで案内している。
最終的にこの日は成約件数が前日の3倍にまで上昇しました。
オペレーターに聞いてみたところ私とセンター長との話合いを社員もオペレーターもみんな気にして、「あんな揉めている状況を見て、自分にできることはまずはお客様に案内することしかできないと思ってやったんです」とオペレーターが教えてくれました。
本当にありがたくて、嬉しくて、涙が出てきて止まりませんでした。「本当にみんなありがとう」とオペレーターに頭を下げました。
この日から成約数は他の拠点を超える数字が出るようになり、全体の底上げが一気にできました。
当然、想定してやったことではないのですが、人との関係性ができていればこんなことが起きるのだと実感しました。
これ以降、私の中では何かあったら部下やアルバイトに意見を聞いたり、正直に上からこれを要求されて困っているんだけど、よい方法はないかな~と相談するようにしました。この方が絶対にうまく行きます。課題をとことん共有することが大切と認識しました。